インタビューの前編では、一般社団法人日本ドローンレース協会(以下、JDRA)の副理事の横田淳氏にJDRAの設立の経緯や目的とドローンレースの普及についてお話を伺いました。後編ではそんなドローンレースをもっと多くの人に楽しんでもらうためのJDRAの活動や、2018年の展望について更にお聞きしていきたいと思います。
――これまでドローンレースのお話を伺ってきました。続いてJDRAにおける教育関係の活動についてお聞かせください。
教育関係でいうと、サイバーエージェント子会社のCA Tech Kidsさんがプログラミングを中心としたスクールを運営されているのですが、そこの新しい講座として、ドローンを取り入れたプログラミングでドローンレースをやりました。
子供達に誰かと競ってもらうというよりも、自分の中で競ってもらうというか、どうやればもっとタイムを早くできるのか、その為にプログラミングのアルゴリズムを考えて工夫したりとか、というのができると思っています。そういう課題作りの一つとしてドローンレースを取り入れていこうと考えています。
また、TSUTAYAのTサイトさんとはもっとライトなドローン教育を行いました。ただ飛ばすことが目的になるではなく、実際にドローンを触り、観察し、考え、知ってもらい、「ドローンって何?」「どうやって動くの?」「どうやって飛ぶの?」「ドローンって何に使われるのだろう?」といった疑問を感じてもらった上で、ドローンの仕組みや活用方法を学んでもらい、自分で飛ばしてみたいと思ってもらえればと思います。
――ドローンを体験することで、子供達が興味を持つというのが大切なんですね。
勿論、子供なのでそこ(で学んだこと)を忘れてしまってもいいと思っていて、後でどこかで思い出したり、引っかかるものがあったら良いなと思っています。例えば、ドローンって空撮できるよなとか、モーター4つあってそれぞれ隣同士は逆に回転して作用反作用の法則が…とか、飛行時の慣性の法則など後々の学校の授業で出てくることばかりなので、それが一つの良いきっかけになって、ドローンに関係のない分野に活かされてもいいと思っています。で、その中からドローンレーサーが出てきたら僕たちとしてはすごく嬉しいですね。
そのような視点に立って、プログラミング教育や一般のエンジニアリングを理解する為の講座というのを中心にやっていて、その中の一つのツールというかメニューとしてドローンを使った体験をやっているので、ドローン体験をメインに何かカリキュラムを提供することはないですね。
――JDRAの講座に来られる方たちというのは、お父さんお母さんがもともと興味を持っていて探していて、お子さんを連れてくるといったケースが多いのでしょうか。
例えば、愛知県と一緒に行った講座は、愛知県のホームページに告知したり、PTAから告知してもらったりして、そこでお父さんお母さんに伝わって申込みをされているので、リテラシーの高い親御さんたちが子供達の新しい可能性を開くために受講申込みをされるのだと思います。
――面白い取り組みですよね。先ほどミニ四駆の話がでましたが、ミニ四駆はあくまで地面を走らせているだけなので二軸(x.y)の話ですが、ドローンになるとそこに一軸追加(x.y.z)されて空を飛ぶという三次元の話になるので学ぶ要素が増えますよね。色々な考え方が出てくる可能性もありますし。受講された方の反応はいかがでしょうか。
評判はすごく良いですよ。アンケート結果が、愛知県では2日間で250人くらい受講してもらったのですが、大変満足の割合が9割超えていましたね。不満の人はいなかったと思います。
――手伝っていただくのは、JDRAの活動に共感された方達ですか?
メインの講師は私で、ほかのドローンのコミュニティの人たちに手伝ってもらって10人位でやりましたね。愛知県には侍ドローンというコミュニティがあって、そのようなコミュニティと共催してやっています。
――今後、JDRAさん独自のカリキュラム展開はあるのでしょうか。
現在、ドローンレーススクールという形で展開を計画しているところです。初段、二段、三段といった段階があって、目視である程度飛ばせるところまでは1~2ヶ月でレッスンします。更にレースに必要な「はんだ付け」「無線通信の仕組み」「法律的な部分の知識」などを学べる講座も準備しています。最初はマイクロドローンから始まって、次に5インチのスピードドローンに進んで、というステップで進むドローンレーススクールですね。「ドローンの操縦技術」から「空撮」や「映像編集」の講座まで準備して…。
――最初はドローンレースを始めたいというきっかけで入学したけど、学びの過程でドローンレース以外の別の事もやっていきたいという人もフォローする仕組みですね。
そうですね。産業系に活かせる部分も含めて一気通貫してやりたいという人をトータルでサポートできるようなカリキュラムを考えています。
――JDRAさんでスクールの運営もされていくのでしょうか。
我々はスクールを直接運営するということは基本的にはなくて、上述のようなカリキュラムを作って、そのカリキュラムをスクール運営されている団体に提供していきたいと考えています。
例えば、産業用のドローンスクールを運営されている団体さんにカリキュラムを提供して運営してもらうということを考えています。また、大学でも自学内のカリキュラムにJDRAのカリキュラムを導入して、自校の学生に講義の一環としてドローンレースのカリキュラムの提供するということもできます。
我々はドローンレーススクールそれ自体を運営してビジネスをするわけではないので、あくまでドローンレーススクール用のカリキュラム作成やルール作り、どういった機材・教材を使えばいいのかといった部分の整理をしながら支援を行っていければと思います。
――ドローンレーススクールの対象はだれになるようでしょうか。
子供を対象にしていますね。小学生から中学生をメインターゲットにしてやっていますが、カリキュラムの内容的には20代でも30代でもそれ以上の年齢層の方でも受講できる設計になっています。
――子供達に混じって大人も学んでいるわけですね。
そうです。動体視力、反射神経含めて、成長期というのを考えると、操縦技術は若いうちから学んだほうがよいと考えています。またドローン機体の、ハードウェアの部分やソフトウェア部分、両方理解していかないといけないので、頭が柔軟なうちに学ぶほうが、学習効果が高いと思います。成長期にある子供たちが遊ぶように楽しんで過ごしていたのが、いつの間にか専門レベルのことを習得していたというのが理想ですね。
――ただ辛いのではなくて、楽しんでいたのがいつの間にか学びに繋がっていた、ということですね。
ハマって今やっていることが、結果的に操縦技術やエンジニアリングに繋がるのが理想です。実際に私もそうですが、ドローンレースで上位にきている子供とかを見ていてもそうなんですよ。ハマって頑張っている子は、結果的に上手になるし、普通の空撮は難なくこなせるスキルはもちろんのこと、ドローンの組み立てやはんだ付けも難なくできるようになっています。
――まさに「好きこそものの上手なれ」ですね。次の質問に移ります。2017年を振り返られた時にドローンの産業振興という観点でどういった課題があったと考えられていますか。
JDRAの観点から見ると、新しい企業がなかなかドローン産業に入って来なかったと思っていて、大企業が新規事業の一環としてドローンの事業部を作られたりとかはあったのですが、新しい企業がリスクを負ってドローン事業を始めるということが少なかったように思えます。(原因としては)日本国内において市場規模が見えないということもあるし、ドローン人材も少ない、ということもあると思います。ここは我々も困っているというか課題に感じています。
では、我々は何をしているのかというと、エンターテイメントを一つのきっかけとして、ドローン産業そのものを理解してもらうことに注力しております。そして、日本のドローンメーカーが活躍できる場所としての競技会の開催など、そういった取り組みに我々にしかできないことがあると思っています。我々はエンターテイメントをフックとして産業界にも貢献できる取り組みを進めて行こうと考えています。
――確かに2017年は、様々なドローンに対しての取り組みの話が出てきたものの、 既視感のある内容が多いようにも感じました。
海外とスピード感が違いましたよね。JDRAには深セン在住の理事がいるので、中国の情報はよく聞くのですが、非常に動きが活発で日々新しい会社が産まれています。勿論なくなっている会社も中にはあると思うのですが、そういったリスクを背負って新しい可能性を信じて挑戦するマインドを持っている人というのが、周囲にはとても少ないと感じでいますね。
そのようなムーブメントを起こすべく、ドローン業界は可能性のある面白い業界だということを伝え、収益化できる業界にしないといけないと思います。そういったムーブメント作りを我々はやって行きます。
実際に2018年に入ってから共感する企業が増えだしたかなと思っています。これまで問い合わせいただいていた企業とは全然違う業界、例えばIT業界、音楽業界とか、そういったところからもお話をいただくようになってきており、幅が広がってきたなと思っています。ようやくドローンというものが、全国的に認知されてきて、それをどうやって使うかを考える人の絶対数が増えてきたと思います。
――2018年のJDRAの活動について、具体的にどうアクションしていくのかをお聞かせください。
JDRAとしては、2018年はドローンレーサーが活躍する場所としての映えある大きなドローンレース大会を作ることが一つ、もう一つはアマチュア競技としてのドローンレースを普及させることです。そのためには、全国47都道府県でドローンレースを開催することをしたいと思っています。全国にドローンレースを根付かせることを今年は再注力して行こうと考えています。
47都道府県でドローンレースをやる上で、我々が全て47都道府県に行けるのかというと、勿論全ては行けないわけで、ドローンレースを主催する人を増やす取り組みをしなければなりません。そして主催する人を増やすには、ドローンレース自体が興行化できたり、それに相当するメリットや未来像を伝えていく必要があります。このドローンレースを一つのビジネスとするために、それがあるからこそ生まれるビジネスも提供していきます。
――47都道府県でやるって事ですか。すごいですね。
どこかで一箇所(主催者側を)やってくださいよ、ゆかりのある土地で(笑)。
――是非(笑)。それ自体もボランティアではなくて、しっかり収益化できる仕組みを作って提供するのがポイントですよね。
ほんとそうなんです。1回2回の開催では難しいかもしれませんが、4回5回と続けていけばしっかり元が取れるとか、そこに人が集まって、場所ができることで新しいビジネスとか生まれるとか。そこに10人20人が定期的に集まったら、新しいセミナーができるかもしれないし、機体やパーツの修理のビジネスを始められるかもしれない。場所が生まれることで、できるようになることは絶対増えるはずです。それを我々が先陣を切ってアクションをして、色々な可能性を試してみて、これは使えるな、となれば、全国にいるパートナーたちに実際に使ってもらい、ブラッシュアップしていただくといったサイクルを回して進めていきたいですね。
――主催者側に提供されるドローンレースに一定のレギュレーションはあると思うのですが、それほどガチガチなものではなく、主催者やお客さんのニーズに合わせてカスタマイズの余地があるものでしょうか。
レースに関してはある程度レギュレーションを設けたジャパンカップというレースと、チャレンジカップの2種類を設けていて。チャレンジカップは一定のルールに則ってやっていただければできるようにしています。しっかりと興行としてやるからには演出しないといけないし、見ている人が楽しくないといけません。そのためには一定の質を担保する必要があるので、我々の方では運営ライセンスというものを発行して、運営ライセンスを保持していない場合はライセンスを持っている人を派遣する、という形で大会運営の質を担保します。
――ドローンレーサーというのは長く続けられるものなのですか?引退とかそういうもはあるのですか?
還暦過ぎてもやられている方もいらっしゃいます。楽しいですよ、本当にこのFPVの視点って。そういった意味では年齢は関係ないですね。
もちろん競技レースに関してはやっぱり動体視力にも限界がありますし、子供の成長力にも叶わないので…どうなんでしょうね。今後レースに関しては40歳くらいで引退する人も出てくるんじゃないですかね。それとは別に今後カテゴリーが年齢で別れると思いますよ。
――今、横田さんはドローンレーサーとして第一線で活躍されているわけですが、ご自分のお弟子さんがドローンレースの世界で活躍されていたりしますか。
今はいないですね。今後やって行きたいですね。その為にはまずは、ドローンレースの競技人口やドローンレースにかかわる人が圧倒的に少ないので、まずはそこを増やして、ということですね。
――最後に、横田さんのバイタリティというのはどこからくるのでしょうか。
いつの間にか色々やっていますが、普通にドローンレースをやりたいだけなんですよね(笑)。僕はドローンレーサーとしてドローンレースをやりたいんですよ。FPVでドローンを飛ばしていることが本当に好きです。
でもやっぱりレースをやっていても、自分は飛ばしていて楽しいかもしれないけど、今のやり方だと見ている人はあまり楽しくなさそうだし、そうすると僕も素直に楽しめないところって出てきちゃって。だったら自分でその環境を作ろうと。そしてせっかくなら、新しいスポーツをゼロから創り上げて面白い産業に仕立て上げたいなと思い、これらが自分の重要なミッションだと思ってやっている感じですね。
今回はJDRAの副理事の横田淳氏にお話を伺いました。ドローンレーサーの枠を超えて、競技をする人も観戦する人も楽しめるような競技を作り、より多くの人にその面白さを伝えていこうとする横田氏の熱い想いが非常に伝わってくる内容だったかと思います。近い将来、ドローンレースがもっと身近で誰もが楽しめるエンターテイメントになることを期待したいですね。
インタビュー日時:2018年1月31日(水)
撮影場所:the 3rd Burger 新宿大ガード店 (東京都 新宿区 西新宿 7-10-5 イビス東京新宿 1F)
取材者:市川、日比